「言峰神父、これは重大な欠陥です。」
法衣を身に纏い眼鏡をかけた女性が、神父の格好をした男に語りかける。
「あれだけ巨大な魔力が蓄積されているということ自体が問題ですが、それ以上にまずいのはそれが方向性を、それも考え得る限りで最悪の方向性を持っていることです。
このままいけば日本の、いえ下手をすれば人類全体の終焉になりかねません。」
他人に聞かれれば嘲笑の対象にしかならない話だ。しかし法衣の女性の声は真剣そのものであり神父の顔にも不遜さは微塵も感じられない。
「あなたにはヴァチカンへの連絡をお願いします。私はこの辺で協力を得られそうな者を呼びに行きます。」
法衣の女性は明らかに焦っている。しかし神父は
「ふむ」
なにかを思いついたかのように、そうつぶやいた。
「…あなたがこの教会の地下に隠しているものには目をつぶりますし、管理者としての不備も問いません。とにかく今は「あれ」を何とかしなければいけません。「あれ」はあなたが望んでいるようなものではありません。」
「あなたに私の望みが分かりますかな?」
「興味ありません。」
「「あれ」はこの世に生まれ出ようとしている。ならば祝福するのが我らの神の教えなのではありませんか?」
「何を言っているのです…?」
「いえ、下らぬ戯言です。ヴァチカンへの連絡でしたな。あなたの名前を使わせてもらいます。」
神父は教会の奥へとむかう。
「…お願いします。では私も失礼します。」
法衣の女性は奥に消える神父を厳しい目で送り、自分は教会の外の闇へと消えた…

法衣の女性は深夜の広い公に立っていた。
「…ついて来ているのでしょう?」
「へぇ、気づくとはやるねぇ。」
青い鎧を纏い赤い槍を持った男が楽しそうに現れた。
「別に隠れているつもりもなかったのでしょう?」
「まあ、後ろからぶっすりっていうのは趣味じゃないしな。それに久しぶりに楽しめそうだ。」
槍兵は笑う。
「あまり時間がありません。さっさと終わりにしましょう。」
彼女の手には複数の剣が出現していた。
「行きます!!」
黒い剣と共に法衣の女性は槍兵に向かう。
「無駄だ!」
一振りで全ての剣を叩き落し、返す一撃は黒い弾丸と化した彼女を打ち落とすべく放たれる。しかし彼女はむしろ自らの体を差し出すように加速した!

「馬鹿な。」
確かに彼女の捨て身の攻撃は成功した。今、彼の腕は黒き剣によって貫かれている。しかしその代償として彼女の半身の骨は砕けているはずである。
今彼女にとってこの戦い行方がどうなってもこの場から脱出し、仲間にその情報を伝えることこそが目的のはずだ。その中で捨て身の策など一番避けるべきものだ。
「何考えていやがる。」
「言ったでしょう、時間がないんです。」
法衣の女性が立ち上がる。しかもその体にはあるべきはずの傷は見当たらなかった。
「無傷だと!?、いや、違う。まさかこの短時間に再生したのか?」
「まあそういうことです。」
「…なるほど、我慢比べって事か。」
槍兵は腕に刺さった剣を引き抜こうとする。
「いえ、これでおしまいです。」
そう言ったその瞬間槍兵の腕に刺さっているそれを中心に公園全体が光を放つ。
「なに!?」
「前もって仕掛けておいた結界です。こんなに早く使うことになるとは思いませんでしたが。」
公園全体の光が槍兵を拘束していた。
「くそ!」
「まあ、あなたみたいなのが相手では一分と持たないでしょうけど――」
再び黒い剣が手の中に出現する。
「それで十分です!」
今度こそ必殺の殺気をこめた切っ先が槍兵に向かう。
瞬間、槍兵の槍は赤く光った。
「無駄な足掻きを―」
「ゲイ・ボルク!!」
それはすべての事象を無視し「心臓を貫く」という結果のみを先出しする因果の逆転。
「な!?」
次の瞬間、呪いの槍は彼女の紺の法衣を貫き、またその心臓をも貫いていた。

「…いきなりこいつを使うことになるとわな。まあ切り札を隠していたのはお互い様か。」
物言わぬ死体から槍を引き抜きぬくと鮮血が噴き出した。
「さっさと後片付けをして帰るか…」
腕に刺さった剣を抜き死体に手を伸ばそうとした矢先、動かぬはずの死体が跳ね上がった。
「…おいおい冗談だろう?」
確かに心臓は貫かれていた。そこから噴き出る血液の量はどうみても致死量である。
なにより貫いた槍はただの槍ではない。貫いたが最後あるのは死のみのはずだった。
しかし彼女は法衣を自らの赤で染め、そこに立っていた。
「この程度で死ねるなら、苦労はないんですけどね。」
空を仰ぎつぶやいた。
「この程度、だと?」
「いえ、結構な威力です。今度はすぐには治りそうにないので今回は引かせてもらいます。」
「逃げられると思うのか?」
「ええ」
青い槍兵はにやりと笑い槍を構えなおす。
「ならば、逃げてみせろ。」
獣のような素早さで間合いを詰める。
それに対し彼女は懐から取り出した筒からピンを抜き差し出すように手放した。
パンッ!と乾いた音を立て光がはじけた。
「く!」

一瞬の間に彼女はいなくなっていた。
「今のはなんだ?魔力は感じなかったが…」
周りを見渡しているとだんだんと騒がしくなってくる。
「ご丁寧に人払いまで解除していきやがったか…、今度会ったときは必ず決着をつけてやる。」
青い槍兵もまた夜の闇に溶け込んでいった。

 

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あとがき

以前TYPE-MOON UNOFFICIAL BBS様に投稿させて頂いた作品で管理人がはじめて書いたssになります。

とにかく書いてみようと思い、書いたもので少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

bbsやメールで感想をいただけると管理人が小躍りして喜ぶのでよろしくお願いします。

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