結局電車が動き始めたのは一時間後だった。
前後の駅に降ろしててくれればバスに乗るなりタクシーを使うなり方法をがあったのだけれど、前も後ろもホームが埋まっているらしく駅が見えるところでひたすらに停車していたのだ。
何とか駅で降りたもののタクシーは一時間待ち、しかしバスは基本的に駅と駅の間をつなぐものではないらしく、仕方なくタクシーに並ぶしかなかった。
駅に降りた時点で連絡を入れるべきだったということに気付いたのはタクシーに乗ってから、いやそもそもセイバーに担いでもらえば遅れる事も無かったのではないか、と気付いたのは約束の時間から遅れること約一時間、世間一般の人が『大きな家』といわれて想像するであろう家の軽く五倍はあるであろう洋館を前にしたときだった。
そもそもJ○が悪いので私が悪いんじゃ無いのではないだろうか、等と多少呆けていると士郎から声をかけられた。

「遠坂、呼び鈴押すぞ?」
「ええ、お願い」

士郎がボタンを押すと『ビー』となんだか最近聞かないような音が鳴る。もちろんこれで中まで聞こえるはずも無いので中には別の音源があるのだろう。
しばらく待って反応が無いためもう士郎が一度押そうと指を伸ばすと、遠くの玄関から一人の割烹着の女性が出て来るのが見えた。
その女性がカラコロと下駄を鳴らしながら走ってくるのがすごく可愛い、お手伝いさんというとお婆さんを思い浮かべるけれど多分彼女は私たちよりも一回り年上といったところだろう。彼女みたいな人なら是非とも雇いたいところだ。まあ、考えてもせん無い事ではあるのだが。

「すいません、お待たせしてしまって。遠坂様でよろしいでしょうか?」
「はい、御当主に取り次いでいただきますか?」
「わかりました。とりあえず中にお入りください。」

そういうと自分よりも大きな門をぶら下がるように引っ張り、できた隙間から体を入れその門を押し広げていく。
うーん、可愛い。なんというか動物や子供の可愛さではなく女の人の可愛さだ。そこに割烹着とくればもはや犯罪的な可愛さである。やるな遠野。

「どうぞ?」
「あ、はい。失礼します」
「どうした遠坂?ぼおっとして」

隣の男はこれを見てもなんとも思わないらしい。この愚鈍さは嬉しくもあるが嘆かわしくもある。

「なんでもないわ。行きましょう」

 

 

屋敷の中に入ると吹き抜けのホールがあった。
古めかしく重厚な造り、間違いなく洋館なのだが、どこか日本的な古さを持つその独特な雰囲気は、ひどく時の流れを重くしているように思えた。

しかしそんなことはどうでもいい。今私の目の前にあるものと比べれば本当に些細な事だ。
今、私の目の前にはメイドがいるのだ。コスプレでもない真のメイドそれも美少女メイドだ。もはや一生見ることは無いと思っていた――いや、その存在すら信じていなかった。しかも目の前のそれは双子なのだ!ああ!私の理想郷は今ここに――!

「おい!遠坂!」
「…え?な、何よ」
「何よって…、鼻血が出てるぞ…?」
「ええ!?」
「大丈夫ですか?リン」
「え、ええ、大丈夫よ」
「どうしたんだ?さっきから変だぞ?」
「大丈夫、なんでもないわ」
「大丈夫って言われても、さっき鼻…」
「大丈夫!!」
「あ、ああ。まあ遠坂がそう言うなら…」

何か話し合っていた二人がこちらに戻ってきた。

「お待たせいたしました。私は秋葉さまを呼びに行きますので、この子がご案内します。じゃあ、後はよろしくね翡翠ちゃん」

翡翠と呼ばれたメイドさんが一歩前に進みぺこりと頭を下げる。

「翡翠と申します」
「あっ、申し送れましたが、私は琥珀と申します。どうぞよろしくお願いします」

琥珀さんもあわてたように頭を下げる。

「え、えーと、こちらこそよろしくお願いします」

そう言い頭を下げる士郎の顔に紅がはさしていた。セイバーは大してあわてた様子も無く平然としている。さすが王様。

「ではこちらにどうぞ」

翡翠さんに案内された客室は落ち着いた雰囲気の客室だった。
しかし絨毯がやけにふわふわだったりテーブルクロスが異様にすべすべだったりする。さらに出されたティーセットは以前雑誌で値段を見て「誰が買うんだこんなもん」と思ったものに非常に似ている気がする。
というかこの部屋の内装だけで家の一軒や二件、軽く建ってしまうのではなかろうか。まあ壁にかけてある絵が本物ならば一軒や二件ではすまないだろうが…
そんな高級品の中でもセイバーが紅茶を飲んでいる姿は非常に絵になる。絵になるのだが…

「セイバー、少しは遠慮しなさい」
「しかしリン、出されたものを残すのは失礼になります」
「お茶菓子はいいの!」

「ずいぶん騒がしいですね」

不機嫌そうなよく通る声、後ろを向くと長い黒髪の少女が琥珀さんを従えて立っていた。
私たちを一瞥しそのまま彼女専用だと思われる椅子に座った。翡翠さんが紅茶を無言で出す。
これが遠野の当主か、なるほど正面に座るだけで刺すような雰囲気を感じる。

「ずいぶんと遅かったようですが?」

目線が合うと威圧するような冷たい目に一瞬圧倒される。これで十六だというのから末恐ろしい。

「申しわけありません。電車が止まってしまいまして」

できるだけ笑顔を作り言う。すると意外なことに一瞬きょとんとした顔になり後ろに控えている琥珀さんに何か話しかけた。

「なにか?」
「いえ、電車、電車が遅れたならなら仕方ありませんね」

一瞬見せた隙を取り繕うかのように言う。…もしかして電車に乗ったことが無いのだろうか。
その後は儀式的な挨拶と形だけの情報提供、いくらこの国のドンといえど本質的なところでの魔術協会への影響力はほとんど無いのだ。

ちなみにその間にセイバーがお茶菓子を二回おかわりした事を追記しておく。

「以上で冬木市における。魔術師同士の抗争の報告を終わります」
「…」
「何か質問がありますか?」
「…正直に言いましょう」
「ええ、どうぞ」
「私達はあなた方の存在を快く思っていません」
「はい」
「そして私達は降りかかる火の粉は払う覚悟があります」
「…」
「それを貴女達の仲間にしっかりと伝えておいてください」

…驚いた。愚痴くらい言われる覚悟できたけれど、ここまではっきり言われるとは思わなかった。
なんというべきか慎重に言葉を捜す。ここまではっきり言うのだから脅しではないはずだ。ここで間違えば戦争になるかもしれない。
出すべき言葉を見つけ口を開いたその瞬間

「ただいまー」

なんて間の抜けた声がして、後ろの扉が開かれた。

「あれ?お客さんか?」
「に、兄さん。今日は乾先輩と出かけるんじゃなかったんですか!?」
「それが電車が止まっちゃって…、どうも初めまして秋葉の兄です。学校の友達ですか?」

なんて笑顔で聞いてきた。なるほどさっき電車の事で反応したのはこの人のせいだったのか。

「違います!この人たちは仕事の関係で…、いいから!出てってください!!」

そういって自らの兄を部屋から押し出そうとする姿は16歳の年相応でなんだかとても微笑ましかった。
押し出されるほうの兄貴はこちらにひらひらと手を振りながら退場していった。なんだか昼行灯っぽい。
こちらを振り返った遠野の当主は顔が真っ赤で可愛かった。多分数少ない弱点なんだろう。

「…」

気まずい空気が流れる…

「…今日はこの辺でお開きにしましょう。琥珀、タクシーを呼んで差し上げて」

取り繕うように言っても緩んだ雰囲気はどうしようも無かった。

「では私はこれで失礼します。琥珀、翡翠、後は任せたわよ」
「はい、秋葉さま♪」

琥珀さんもくすくす笑って、翡翠さんは頭を下げて主人を見送った。双子なのに性格はずいぶんと違うようだ。

「じゃあタクシーを呼んできますね。そうだセイバーさんクッキー少しお包みしますか?」
「ええ、ぜひお願いします。このお茶菓子はとても美味しい。どこっで売っているのですか?」
「遠くのホテルからなんですけどちょっとお値段が張りますので…、士郎さんお教えしてよろしいのですか?」

セイバーがおかわりするたびにおろおろしていた士郎は

「えーと、できれば内緒にしておいていただきたいですね」
「だそうですよ。ごめんなさいセイバーさん」

琥珀さんはそう言って悪戯を下みたいに笑って電話をしに部屋を出て行った。
セイバーは無表情で士郎を見つめている、…いや頭に"怒り"マークを浮かべている。獅子の王様の食事を邪魔するとは、明日の士郎の剣術の稽古は厳しくなりそうだ…

 


その後餌付けされたセイバーが遠野家の食客扱いになったりするのはまた別の話…

 

 

 

 

――――――――――――

あとがき

聞き終わったときの自分の感想は「中途半端」でした。凛とかもっと壊したかったです。それができないのは私の度胸の無さゆえなんでしょうが…

でも、かけて来る琥珀さんとか、門を開ける琥珀さんとか書けたのでまあ満足ですw

bbsやメールで一言感想をいただけると管理人が狂喜乱舞しますので、なにとぞよろしくお願いします。

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送