「シオン?」

頬に触れた手を握る。

「どうしたんだ?何かあったのか?」
「なにか、とは?どこかおかしかったですか?」
「いや、具体的には分からないけどなんだか、こう、追い詰められているような…」

その言葉を聴いて初めてシオンの顔が歪む

「追い詰められている、ですか…」

シオンは呟き手を払った。
夕陽に向かい立ち続ける。

「まったく志貴は鈍いようでその実どこまでも鋭い。いつか折れてしまうのではないかと思えるほどに」
「シオン、なにがあったんだ?」

シオンには既に先ほどまでの活力は無く皮膚は透き通りそうなまでに白みを帯びていた。

「何も、ありません。ただ辿り着くべき所に辿り着いただけです」
「シオン!」

名前を呼んでいなければ倒れてしまいそうなほど、目に見えてシオンは弱っていた。

「何でいきなりそんな、今にも倒れそうだ」
「ああ、これは志貴の血を我慢していたからです。こんなにも消耗するとは認識が甘かったですね」
「シオンまさか!」
「ふふふ、我慢するつもりだったんですけどね。やはり一番理解しがたいのは自分の心ということでしょう」

シオンは口から覗く牙を隠そうともしなかった。

「やっぱりこうなりましたね」
「先輩!?」

公園の木の中から下りてきたのはシエルは既に黒鍵を握っていた。

「先輩、何でこんなところに?」
「彼女に頼まれて、『志貴に手を出さないように見張っていてください』だそうです。自分を殺しに来た相手に言う台詞ではないですね」
「代行者、感謝していますよ。貴方のことが頭に無ければすぐにでも襲い掛かってしまいそうでしたから」

「シオンなんで?ワラキアを倒して吸血衝動は収まったんじゃあなかったのか?」
「ズェピアからの支配は脱しましたしかし今回は私自身の問題です」
「だったらなおさらだ!何で衝動に身を任せているんだ!?」
「任せなければならないからです。志貴は言いましたね。タタリの発生には一編の悪意もなかったと、そういうことです。結局この世界の結末は破滅であり、それを回避するために私は第六法に挑まなければならない」
「シオン!」
「無駄ですよ、遠野君。彼女は既に百人単位で人を襲っています。もう戻ることは無いでしょう」
「先輩…!!、シオンまだ君は自分の言葉をしゃべっているじゃないか!戻れないはずは無い何度でも俺が―」

 

「私だって!!!!」

 

シオンは血を吐くように叫ぶ


「考えて考えて考えて!!それでも結末はいつも破滅破滅破滅!!それでも考えに考え抜いた、でも考えれば考えるほど未来はめちゃくちゃに成って行くばかりでズェピアの言うとおりだったんだ世界は破滅に向かっているあらゆる要素がそれに背こうとも結局はすべて根源に向って収束して征く魔術師も錬金術師も科学者も何も知らない大衆も幾ら蠢こうが足掻こうが考えようが全ては世界の手の中で全て全て全て無駄無駄無駄無駄ムダ無だむだ無駄無だ無だ無だ無だ無だ無だ!!!!!!!!!」


あの夜と同じ絶望の叫び、無力な自分と大きすぎる何かへの呪詛の叫び


「結局私は穴倉の怨念の具現、全てが借り物で無限に繰り返される世界への反逆の一」


それは誰かに伝えるためではなく全て自分への独白


「それでも私には一つだけ救いがあるんですよ、志貴」


伏せた顔を上げこちらを向いたその時、シオンはもう一度咲くように笑った。


「貴方への気持ち、これだけは借り物でない私だけの物です。これさえあれば私は私でいられる。現象としてのタタリでなくシオン・エルトナム・アトラシアでいられるのです」


「そうか…、シオン、君が君であるままにその道を進むなら俺は、君を殺すことしかできない」
「そうですね、もしここで騙し通せたとしてもきっと貴方なら私を殺しに来てくれたのでしょうね」


眼鏡を外しナイフを出す


「遠野君…」
「ごめん先輩、俺の手で決着を付けたい」
「…言うと思いました」
「もし負けたら、秋葉にうまく言っておいてください」
「嫌ですよ、負けないでください。彼女もそれを望んでいるはずです」


そう言い残し先輩は公園を去る。これでもし俺が負けたらシオンを見逃してくれるんだろうか――

 

「さあ殺し合おう、シオン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

あとがき

今回はリクエストであった幸薄いヒロインの多いTYPE−MOONでも史上最も救いのないヒロイン、シオンの話です。

メルティブラットどのエンドでも明確な救いの示されない彼女ですが、どこまで行っても彼女は救われないような気がします。(おい

もっとも幸せであろう結末が志貴に殺されることというのはもうどうしようもないほど萌えます。(えー

そんな歪んだ私のシオン観はDNAのメルブラのアンソロのしとねさんの影響を深く受けて作られています。機会があればぜひ読んでみる事をお勧めします。

 

さて、今回これを書くにあたって描写を細かくという努力を放棄してみました。

そうすると作品の出来上がりが早くなるのは短くなっているので当たり前なのですだ、単位文字あたりの時間も結構短くなっているように感じました。

しかし読んでいただいている方に書いていることが伝わらなければ無意味どころか大変な失礼になります。

どうだったでしょう?ご意見ご感想いただければ幸いです。

 

bbsやメールで一言感想をいただけると管理人が狂喜乱舞しますので、なにとぞよろしくお願いします。

 

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