一人の法衣の女性が蝋燭で照らされた薄暗い階段を上る。
聖堂教会本部の端、木に隠れる様に存在するその建物は、未だに電化されていない。
明らかに不経済に見える蝋燭だが、この蝋燭が交換されるのを見たことが無い。いや、それどころかこの決して狭くない建物全体を照らす多くの蝋燭のうち、一つたりとも消えていた事が無いように思える。
彼女は蝋燭の火を消してみたいという衝動に駆られたが、すぐに自分の上司の顔を思い出し、考え直した。
外敵が絶対侵入不可能な場所とは言えここは奴の城、どんな防御手段が仕組まれているか分からない。
いや、そもそもアレは部下をいじめる事を生きがいにしているような奴だ。もしかしたら蝋燭を消してみたいと思ったこの考えさえ何らかの罠かもしれない。

雑念を振り払い階段を上り、感覚的には五階程度上ったようなところで一際大きな扉が見える。
女性は一度大きくため息をつき扉をノックした。

「シエル、召喚により出頭しました」

扉を開け部屋に入ると、いきなり増した光量に視力を失う。
左右と前方のステンドグラスから差し込む光で、外は快晴だった事を思い出す。
三方から差し込む光の焦点に、大きな机と、それよりも更に大きな椅子に座った女性の姿が合った。

「やあ、シエル。久しぶりだね、ずいぶんと頑張っている様じゃあないか。仕事にもずいぶん慣れたみたいだね」
「はい、おかげさまで」
「なんだかずいぶんと硬くなっているな、そう警戒しないでくれたまえ」
「はあ、申し訳ありません」
「ふう、否定はしないんだね。どうせメレムあたりにいろいろ吹き込まれたんだろう。全く新任の若い上司をよってたかって毛嫌いするとは、なんて部下たちだろう」
「…」
「…なんだその目は、私だってたまには人の優しさが欲しくなったりするんだ、本当だぞ?」
「…」
「…まあいいさ、とにかく私は忙しい。早速仕事の話しに入ろう。シエル、君は聖杯戦争というものを知っているかな?」
「ええ、名前だけは」
「今度日本でそれが行われるらしい、そこに参戦して欲しい。細かい事は資料を渡そう」
「はあ、でもなぜわざわざ日本に?」
「なぜ、と言われてもね。強いて言うならば嫌がらせかな。魔術師どもの儀式を邪魔するのに理由なんて要るのかい?」
「…さっき人の優しさがどうとか言ってませんでしたっけ?」
「ふふふ、まあ頑張ってくれたまえ。切符の手配は既に済んでる。下で資料と一緒に置いておいた」
「…分かりました。任務に就きます。では失礼します」

シエル踵を返し扉に向って歩く、扉に手がかかる瞬間意地の悪い上司は思い出したように告げた。

「そうそう、今回の聖杯。中身は君にあげよう。
もしそれが本物であれば、いや――もし偽者であったとしても大抵の願いは叶えられるはずだ。
その時になって困らないように願い事を考えておくがいい」


 

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